アニメ『昭和元禄落語心中』と『昭和元禄落語心中 -助六再び篇-』を見ました。
性格が反対な青年ふたりが、落語に切磋琢磨するお話ですが、
菊比古(石田彰)は足に障害を持っため親に落語の世界に送り込まれたようで、落語はやりたくて入った世界ではなく、
助六(山寺宏一)は孤児になり落語で身を立てようと「真打ち」を目指します。
コミックと比較すると、アニメは菊比古を中心に描かれていると思います。
アニメ『昭和元禄落語心中』(感想レビュー)
1話目は、お師匠さん・八雲へ与太郎の弟子入りを描き、
2話目から、お師匠さん八雲の若い頃、菊比古と助六の物語がはじまります。
はじめは落語が未熟な新人が描かれるから、落語の面白さもイマイチわからない。
だけど、11話・12話を見たら面白くなり、はじめからもう一度見たくなりました。
菊比古を中心に描かれていきますが、
菊比古のお師匠さん、
お師匠のお手伝い兼ドライバーの松田さん、
料亭の女将さんなど、
落語をとりまく人々も描かれていき、人に歴史あり、と感じます。
お師匠さんが「未練」と語るエピソードは、やがて助六を弟子にした真意へつながっていくから面白い。
戦争が起き落語どころではなくなり、お師匠さんは満州へ慰問行軍に助六を連れて行きます。
菊比古は落語のお稽古ができなくなることに加え、助六のほうが才能があり見込みがあるため、自分が選ばれなかったと理解しショックを受けます。
しかし、菊比古は足が不自由なので戦争に徴兵されることはないでしょうし、日本へ残す妻の面倒も任せられるという考えがお師匠さんにはあったのではないでしょうか。
お師匠が助六を連れて満州へ慰問行軍へ行ったのは、徴兵されて戦うより生き残る確率が高く、落語も続けられる苦肉の策だったとも考えられ、助六のことも考えてのことだと思います。(コミックではお師匠は数ヶ月で済むと思っていたようです)
満州でさらに絆を深めたのでしょう、第7話でお師匠が助六を心配している様子は、まさにお父さん。
第9話でお師匠と助六がぶつかり合う場面は親子喧嘩。
しかし、助六は「お師匠は菊比古を贔屓している」と思っています。
えー!そんなことないよ!助六も贔屓されてるよ!と言いたくなる。
「親の心、子知らず」とはこのことか。
助六は自分の落語が優れていると思っていて、先輩やお師匠達に頭を下げるのが嫌でした。
実力があればいいじゃないか。
しかし、それは落語との決別を招いていきます。
理不尽でも、ふてくしたら終わり。
目指すゴールの通り道ならそこは通らなくちゃならない。
菊比古はものすごく助六を助ける。
こんな同僚いない!
けれども助六は落語から逃げてしまうのです。
菊比古は、落語二つ目だけで演じた鹿芝居(若手落語家による芝居)
「弁天娘女男白浪」浜松屋
「知らざあ言って聞かせやしょう」と正体を明かす、歌舞伎でも有名な演目です。
助六に強引に誘われた出演でしたが、そこから菊比古の落語が変わっていきます。
菊比古の面白いところは「押し」に弱いところで、なんだかんだで情が深い。
菊比古は自分のキャラに合った落語があることに気がつきます。
そして何のために落語をするのか見つけた第6話。
どんな罪を犯しても、額に押すと極楽浄土へ行くことが約束される印判 「お血脈」の大流行にともない、死者はほとんど極楽往生するようになり、地獄は不景気となり、閻魔大王が困る。
ユーモラスな物語が得意で人を笑わせる助六。
菊比古の披露した落語は『品川心中』
品川の女郎「お染」は、1人で死ぬのは嫌なので誰か道連れをつくることを考える。
影のある女を演じるのが得意な菊比古。
映画「幕末太陽傳」に品川心中が入っています。
古典落語の世界観を取り入れた異色コメディ映画。相模屋の女郎・おそめ(左幸子)はこはるに人気を奪われ、見栄のために心中を計画する。
落語も演じ手によって、面白く聞こえたり、いつもと印象が違う話に思えたり。
「自分らしさ」とか「個性」とか、そういうのもの込めてエンターテイメントに昇格させることで表現の世界において唯一無になりますね。
『昭和元禄落語心中』は才能があっても逃げ出したら凡人で終わり、
才能が無くても磨けば大名人になる、という物語だと思いました。
『昭和元禄落語心中』にはさまざまな落語が登場します。
・落語『死神』
死神は、この蝋燭の1つ1つが人の寿命で、今にも消えそうな蝋燭が男の命だと言う。
・落語『野ざらし』
隣人が頭蓋骨を見つけ供養すると、夜に美女がお礼に現れたことを知った八五郎。
サイサイ節を歌いながら、釣り糸に頭蓋骨が引っかかるのを待つ。
・落語『出来心』
間抜けな泥棒が 兄貴分にも見限られ「泥棒を廃業しろ」と宣告された泥棒は、何とか自分の実力を証明しようとと長屋に忍び込む。
アニメ「昭和元禄落語心中」
新人の与太郎(CV:関 智一)が披露する落語「出来心」冒頭映像
・落語『応挙の幽霊』
応挙が描いた絵の中の女の幽霊が動き出し、絵の持主である古道具屋と酒を酌み交わす。
・落語『夢金(ゆめきん)』
百両が欲しい、とお金のことばかり考えている船頭さん。
雪の日、侍と若い娘の川渡しの船頭の仕事が舞い込むが、思いがけず殺人の相談をされる。
アニメ「昭和元禄落語心中」
・落語『紙入れ』
「あらま、そうなの、あたしシンさんがそういうことをする人だとは思いませんでしたわ。
やあねぇ、おまえさんもうぶだね。
亭主のいない留守にさ、若い男を引っ張ってくる女将さんなのよねぇ」
・落語『子別れ』(子はかすがい)
「男やもめにうじが湧く」
「子供は夫婦のかすがいと言いますけど本当なんですねぇ」
「それでおっかさんはあたいのことトンカチでぶつって言ったんだ」
・落語『あくび指南』
八五郎は、道で友人の熊五郎に遭遇し、これから芸の稽古に行くので一緒に来ないかと誘われる。
八五郎は一度は断るが、習う内容が「あくび」という珍しいものであったため、興味が涌き、見学にだけ行くことにする。
・落語『芝浜』
男は足元の海中に沈んだ革の財布を見つける。
拾って開けると、中には目をむくような大金が入っていた。
・落語『明烏(あけがらす)』
「お稲荷さんへお篭りに行く」と連れ出された先は遊郭だった。
騙されたとわかった時次郎は慌てて逃げ出そうとする。
などなど。
落語の内容とエピソードがリンクしているところもあり、落語を知るともっと楽しめます。
ふたりのキーパーソンとなる、美人な芸妓さん・みよ吉が登場します。
したたかな女性で、色気をふりまいて男をたらし込んでいきます。
みよ吉の生きるための武器でもありますがメンヘラな女です。
菊比古はみよ吉と恋人関係になりますが、
お師匠さんは「芸のための遊びなら良いが妻には向かない」と言います。
「芸の肥やし」として芸妓遊びはたしなみとされていました。
みよ吉は助六と一緒になり、小夏をもうけます。
そして小夏は父親不明の子供、信之助を授かります。
最終回で小夏が父親をぼんやり告白したため、信之助の父親について「気持ちが悪い」という感想が見られます。
「気持ちが悪い」かどうかは一旦置いといて、こういうお話でやはり思い出すのは源氏物語の光源氏でしょう。
光源氏は初恋の人の血筋である、紫の君を見かけ「あの人に似てる!」と引き取って育て、後に妻として迎えます。
周囲の人は、両親がおらず、強い後ろ盾の無い姫君が、位の高い男性に妻として迎え入れられ、何不自由なく暮らせるなんて幸せ、と感じています。
菊比古は光源氏のような思いで小夏を引き取ったわけではないでしょうが、小夏が成長し三味線などお稽古する姿にみよ吉を見ることはあったと思います。
そして押しに弱い菊比古のことですから小夏に求められたら抗えないでしょう。
小夏は助六が大好きで、いわゆるファザコンですし落語も大好き。
父親代わりの菊比古に恋しても不思議はなく、この気持ちに名前をつけられない、と言ったのはそういうことも含んでのことだと思われます。
想像ですが。
信之助が幸いなのは、容姿がおじいちゃんにあたる助六に激似ということでしょう。
しぐさや佇まい、性格は菊比古にそっくりですが、それは一緒に育った影響だと周囲は感じています。
菊比古がはじめて女性とお付き合いするとき、
(女というのはなんなのか知りたくて付き合ってみた)と言っています。
十代の男の子なら、好きという感情や性欲から女の子に興味を持つのが普通だと思いますが菊比古は芸にストイックなことが伺えます。
菊比古と助六を足して割ったら、ちょうどいいのに。
そんなことが浮かんだとき、あ、だから信之助なのか、という気がしました。
『昭和元禄落語心中 -助六再び篇-』2期へ続きます。