クリムトの名画『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』が、オーストリアのベルヴェデーレ宮殿美術館にあるのは知っていましたが、それは2006年まで。(『接吻』は今も展示中)
えっ!?無いの!?今はどこへ?
実は現在アメリカ(ノイエ・ギャラリー・ニューヨーク)にあります。一体なぜアメリカへ渡ったのか?オーストリア政府がよく手放したな!?その実話を描いた映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』を視聴しました。これで名画つながりの映画鑑賞も3連チャンです。
今回紹介する映画
はじまりは、アデーレの姪の相続
アメリカに暮らす82歳のマリア(ヘレン・ミレン)は、絵のモデルとなったアデーレの姪です。ある日、遺産がアデーレの元へ。その中にクリムトの名画が含まれているはずです。
駆け出し弁護士・ランディ(ライアン・レイノルズ)に協力を仰ぎ(なんと作曲家シェーンベルクの孫!)遺言を調べに&返還審問会(強制没収された美術品を持ち主に返還するための会)に出席するためオーストリアへ渡ります。
ベルヴェデーレ宮殿美術館のクリムトと第二次世界大戦
ベルヴェデーレ宮殿美術館を訪れたマリアは、クリムトの作品『アマリエ・ツッカーカンドルの肖像』の前に立ちます。1918年にクリムトが急逝したため未完成のまま残されたその絵を前に、彼女はぽつりと呟きます。
「うちの家族の友人で、収収容所で亡くなったの」
描かれた人物の切ない運命を知ることで、クリムトの絵画と第二次世界大戦の影、そしてナチスによる迫害の歴史が深く結びついていることを強く感じさせられる名シーンです。
そしてついに、伯母の名を冠した傑作『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』の前へ。
絵を前にしたマリアの脳裏には、大好きだったアデーレ伯母さんとの思い出、そして戦争の記憶が蘇ります。
当時、叔父(アデーレの夫)から「早くオーストリアを出るように」と助言されていたものの、決断が遅れてしまったマリアの父。やがて渡航が禁止され、自宅にはナチスが押しかけて財産を次々と差し押さえていきました。そしてマリア夫婦は、両親を残したままナチスの厳しい見張りをかいくぐり、決死の国外脱出を試みます——。
「ただの裁判映画かと思ったら、まさかのナチスからの脱出劇!?」と思わずハラハラドキドキ。ですが、この過酷な過去を描くエピソードがあるからこそ、マリアがなぜあれほど故国オーストリアへ戻るのを嫌がっていたのか、その心の傷が痛いほど理解できました。
オーストリアで裁判できない!泣き寝入り!?
ベルヴェデーレ宮殿美術館の担当弁護士から告げられたのは、「絵画はそのまま美術館に留め置く」という決定でした。話し合いで解決しない以上、残された道は裁判のみ。しかし、絵の市場価値(数千億円規模)に比例する莫大な裁判手数料が必要となります。「個人にそんな大金は払えないだろう」と高を括ったオーストリア側の足元を見透かした対応だったのでしょう。
アメリカへ帰国しても諦めきれない弁護士ランディ
1億ドルとも言われる絵画の価値、そして何より彼自身の祖父もまたナチス・ドイツから逃れてアメリカへ渡った過去があったからです。
そんな折、彼は「条件を満たせばアメリカ国内で訴訟を起こせる」という法的抜け道を発見します! 直談判しに行った上司にはあっさり断られますが、この上司役が『ゲーム・オブ・スローンズ』のタイウィン・ラニスターでおなじみのチャールズ・ダンス!激渋なスーツ姿で登場し、思いがけない出演に大興奮でした。
それでも諦められないランディ
なんと事務所を辞めてまで訴訟に挑みます。勝手に退職して最初は激怒していた妻(ケイティ・ホームズ)が、最終的には夫の信念を理解して応援する姿には地味にジーンとさせられました。
事態はついにアメリカ連邦最高裁にまで持ち込まれます。結末を知っていても息をのむ展開の連続!さらに協力者であるオーストリア人記者フベルトゥスが手を貸す理由も明かされていきます。
彼を演じたのは『グッバイ、レーニン!』のダニエル・ブリュール。「どこかで見た顔だ!」とスッキリしつつ、その存在感ある演技に惹き込まれました。
それにしても、最後までベルヴェデーレ宮殿美術館の不誠実な態度は本当に酷かった……!(歴史的史実とはいえ「これ本当!?」と疑いたくなるほどです)。
両親を置いて逃げたマリアの苦しみ
マリアは「両親を置いて自分だけ逃げてしまった」という罪悪感をずっと抱えていました。 ですが、ご両親の立場に立てば「もっと早く脱出させてあげればよかった」という後悔と申し訳なさでいっぱいだったはず。自分たちには何もしてあげられない中で、唯一できたことが「快く見送り、無事を祈るだけだった」のではないでしょうか。
命がけでアメリカへ逃げ延びてくれたことを、ご両親は何より喜んでいたと思います。
「絵画を取り戻す」それは単なる所有権の主張ではなく、思いがけず深く胸を打つ物語でした。
馴染み深いタイトル『黄金の女』
ところでこの絵画のタイトル『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』に馴染みがありません。有名な絵で知ってるはずなのに...不思議に思っていましたら、この映画の原題は『Woman in Gold』。ナチスがユダヤ人の名を隠すために書き換えた『黄金の女』というタイトルでした。
あぁ!そうそう!『黄金の女』だった!!成金っぽい嫌なタイトルだと思っていましたが、そういうことか!いつから、再び『アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I』という名称に戻ったのか?
それは2006年に遺族(マリア・アルトマン)へ返還されたタイミングだそう!
えー!!
オーストリア側は戦後もその名を使い続け、歴史を隠蔽しようとしていたようです。
クリムトが3年もの歳月をかけて描いた最高傑作であり、山田五郎氏も「豪華で凝っている」と絶賛する作品だからこそ、オーストリア側も国の宝として手放したくなかったのでしょう。
しかし、誠意のない対応で交渉の余地をなくし、結果的にすべてを失って自爆してしまった……という点においては、現代のビジネスや交渉事における強烈な教訓としても痛快で、実に見応えがありました!
アートと歴史の関わりがとても興味深く、おすすめです。
映画『黄金のアデーレ 名画の帰還』
モデルのアデーレについての深掘りや、絵画についての解説が面白いです。
山田五郎・動画【クリムト黄金様式の最終到達点!】