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17年分のエッセイ、中村文則・初エッセイ『自由思考』(感想レビュー)

 中村文則・初エッセイ『自由思考』(感想レビュー)

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根暗は人に迷惑をかけるから止めた、と中村文則さんが話したのを又吉直樹さんが聞いて、自分も根暗を止めた、と話していました。

又吉直樹さんにそんな影響を与える中村文則さんに興味が湧き『自由思考』を読んでみました。

エッセイに中村文則さんが又吉直樹さんにはじめて会ったときのことも書かれています。

自由思考

自由思考

  • 作者:中村文則
  • 発売日: 2019/07/05
  • メディア: 単行本
 

 内容

デビューから17周年を迎える中村文則さんの初エッセイ集で書き下ろし3本を含む111本を収録。

 東日本大震災の5日後に依頼を受けた福島の地元紙・福島民報への寄稿文、その2ケ月後に中日新聞早稲田大学のウェブサイト、さまざまな媒体で掲載された文が1冊の本になっています。

 

中村文則さんの作品で有名なのが、アメリカ・デイヴィッド・グーディス賞を日本人で初受賞した『教団X』です。

随分前に読んでみようかなと、最初の数ページを試し読みしたところで、これは私には読めないな、と諦めたことがあります。

エッセイなら読めるだろうと思って『自由思考』を読んでみたのでした。

教団X (集英社文芸単行本)

教団X (集英社文芸単行本)

 

 

Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞した『私の消滅』も有名です。

実際に起きた事件をベースに中村文則さんが小説化しました。

本当はノンフィクションを書きたかったそうですが小説依頼しか無くて書けなかったみたい。

私の消滅 (文春文庫)

私の消滅 (文春文庫)

 

 

そう考えると、村上春樹さんのオウム真理教団による地下鉄サリン事件のノンフィクションって改めて小説家がこのようなノンフィクションを出版するってすごいことなのかもしれない、と思いました。

アンダーグラウンド (講談社文庫)

アンダーグラウンド (講談社文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 1999/02/03
  • メディア: 文庫
 

 

さて、

中村文則・初エッセイ『自由思考』(感想レビュー)

 

中村文則さんが作家になる前、東京でフリーターをして、お金がなかったエピソードが書かれています。(毎日新聞地方版・虹のパレット(2013年)「お金の価値が反映されない」掲載分)

コンビニでアルバイトをしているけれど、コンビニのお弁当が高くて買えない状況で、それを破棄する仕事をこなす。

なんともシュール。

漫画家・古谷実さんのような、日常に潜む闇の入り口はどこにでもあるのだと感じます。

 

最近、一部のローソンが夜間の営業を止めました。

これについて何かを言うつもりはなく、気になる人がいるのです。

長年、夜間のシフトに入っている男性がいたのだけれど姿を見なくなり、

(どうしているのだろう)

と思っていたところで、その男性は真面目に働いていたし、就職難の頃にフリーターになられていたのを知っていて「真面目に働いていても、お金の価値が反映されない」ことについて余計に考えさせられました。

彼のような人のおかげで社会は平穏無事で回っている部分もあるとも思うのです。

 

中村文則さんは愛知県出身で、思い悩む傾向にあり、人間不信でもあったとのこと。

村上春樹さんの『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を連想しました。

主人公のつくるが愛知出身で、愛知県には独特の閉鎖感があるとか、そんなようなことが書いてあったと思います。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (文春文庫)

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (文春文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2015/12/04
  • メディア: ペーパーバック
 

愛知県は(日本の中世・近世における支配者氏族との関係が濃い地域である。抜粋元 愛知県 - Wikipedia)ので、愛知特有の人間関係が息苦しく感じやすいのかしれません。

中村文則さんは福島大学へ進学し、明るく変わったそうです。 

 

そんな 中村文則さんに影響を与えた文学はドストエフスキーです。

ドストエフスキーを熱心に読まれてて、ドストエフスキー愛に辟易としてしまいました。

けれど、私は熱中している人に興味を抱く性質なので、そんなにドストエフスキーは良いモノなのか?と興味が出てきました。

ドストエフスキーは『罪と罰』『カラマーゾフ兄弟』『白痴』などが有名ですが、本の分厚さに白目になったので、まんがで読破カラマーゾフ兄弟を読みました。

 

ドストエフスキー罪と罰』を現代日本に置き換えた漫画もあります。

ひきこもり、援助交際など様々な事象を取り入れ、歴史的名作と融合されています。

罪と罰 : 1 (アクションコミックス)

罪と罰 : 1 (アクションコミックス)

 

 

エッセイの『自由思考』の冒頭はアダルトビデオの話もでてきて軽い内容だったけれど、Ⅱ以降は、東日本大震災の頃とあって、真剣なエッセイが綴られています。

そしてⅢで、また軽いエッセイも出てきます。

なにせ17年分のエッセイです。

青年の成長を見ているようです。

 

タクシーの運転手に「今のじゃ女性は口説けませんよ」と言われるエッセイは、まるでショートストーリーのようで面白かったです。

「ある小説が出るまで」というエッセイは駆け出し作家だった頃に頂いた手紙がきっかけではじまるのですが、作り話のようにいい話です。

後半のエッセイは中村文則さんもかなり成長してらして読みものとして面白味が増していました。

芥川龍之介賞を受賞されるなど、数々の賞を獲っているだけあって、文章表現が素晴らしく、いちど読んでは戻って読んでみたり、なかなか前に読み進められませんでした。

また時間を置いて読んでみたいと思えるエッセイです。

あとがきで、17年分を何とか1冊にまとめ、2冊で読むよりも1冊で読む方が値段的にお得なので、これでよかったと思っている、とあり、お金で苦労されただけあって、そういうことも考えるのだなと思いました。