舞台はニューヨーク。
美術商ロバート・サイモンは2005年、ルイジアナの小さな競売で見かけた絵がダ・ヴィンチの「失われた絵」と同じ構図に気が付く。
もしかして、名作《サルバトール・ムンディ》(世界の救世主、通称 男性版モナ・リザ)では?
さっそく落札し、価格は1175ドル(13万円)
その13万円の絵が510億円になる本当の話、
ドキュメンタリー映画『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』を見ました。
昨日に紹介したドキュメンタリー映画『レンブラントは誰の手に』つながりで、おすすめ映画にあがってきたのです。
映画をもっと詳しく知りたくなった人はベン・ルイス著、上杉隼人訳『最後のダ・ヴィンチの真実 510億円の「傑作」に群がった欲望』もどうぞ。
映画『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』(感想レビュー)
このドキュメンタリー映画の魅力は、
13万円から510億円になったダ・ヴィンチの絵「救世主」ですが、
さらに、所在不明の謎に包まれるのが魅力です。
サスペンス映画のような演出で、面白いドキュメンタリー映画でした。
ダヴィンチの確証が無く、なかなか買い手のつかなかった「救世主」
2013年、ロシアの大富豪ドミトリー・リボロフレフは1億2750万ドル(約157億円)で「救世主」を購入しました。
ただ、この買い物にはケチがついて、買い付けをお願いしたスイス美術商イブ・ブービエが8000万ドルで購入したのに、ドミトリー・リボロフレフには1億2750万ドルで購入しましたと嘘をつき、差額をポケットマネーにしたうえに、1億2750万ドルの2%の仲介手数料まで搾取したのです。(けれども合法な手順を踏んでいるので違法ではない)
その後、オークションに出品され世界最高額の4億5000万ドル(約510億円)にて売却されて、ドミトリー・リボロフレフは利益を手にしたようです。
ロシアの大富豪ドミトリー・リボロフレフについて
2011年からサッカーフランス・リーグ1、ASモナコ(AS Monaco)の会長になっていますから、サッカーに興味のある人なら名前をご存知でしょう。
2014年の資産総額は推定88億ドル(約8900億円)。
当時、妻と離婚協議中だったドミトリー・リボロフレフ氏(47)に対し、スイス・ジュネーブの裁判所は妻のエレナさんに40億スイスフラン(約4500億円)を支払うよう命じる決定を言い渡したことでもニュースになりました。
とにかく桁違いの富豪です。
参照記事 離婚協議で史上最高額、ロシア富豪に4500億円支払い命令 - CNN.co.jp
スイス美術商イブ・ブービエの訴訟は2021年もまだ続いていて、多分、今も続いているようですが、イブ・ブービエに有利な判決が、さまざまな国の裁判で下されています。
510億円で売れてドミトリー・リボロフレフは損するどころか、儲かったからいーじゃん、というわけにはいかず、報復で訴訟を続けていると思われます。
というのも、この訴訟の影響でイブ・ブービエは映画も登場した「関税のかからない港の保管倉庫」事業の売却に失敗したからです。
2019年に6000万ドル(約86億円)で売却する話があったものの、結局は2022年10月に2840万ドル(約41億円)で売却することになりました。
参考記事
暗号通貨業界の大物ジハン・ウー、美術商のイブ・ブービエからシンガポールのフリーポート事業を取得|ARTnews JAPAN
ドミトリー・リボロフレフを敵に回したら超怖い。
イブ・ブービエは美術商として終わってるでしょう。
関連リンク
・ロシアの大富豪ドミトリー・リボロフレフ(Dmitry Rybolovlev) - Wikipedia
・美術商イブ・ブービエ(Yves Bouvier) - Wikipedia
ともかく、ドミトリー・リボロフレフが一度取得したことで、「救世主」の価値はあがったように感じました。
というか、、、
ドミトリー・リボロフレフ様のためにクリスティーズ社が高く売れるように大宣伝した感じがあります。
そもそも、なぜ13万円で売られていたのか?
絵の所有者はクリスティーズに遺産の絵の売却をお願いしました。
階段の壁に掛けてあった「救世主」に鑑定者はチラッと見て「not for me」と答えました。
和訳すると「クリスティーズ向きじゃない」
つまり「クリスティーズで扱う価値の無い絵」と鑑定したのです。
またクリスティーズ!
映画『レンブラントは誰の手に』でレンブラントを格安で売ったのもクリスティーズでした。
けれども、美術商ロバート・サイモンに言わせれば「救世主」の状態は酷く、専門家に洗浄、修復をお願いしなければならいほどでしたから、クリスティーズが見落としても不思議はなかったのかもしれません。
時間もお金もかかるけれど、それほど美術商ロバートには確信があったのでしょう、修復に2年!を費やします。
その後、ロンドンのナショナルギャラリーの館長を通して、
専門家・オックスフォード大学の美術史家、マーティンケンプ(Martin Kemp)に見てもらい「まぁ、ダ・ヴィンチの作品かもね」という弱めの太鼓判をもらい、「救世主」はナショナルギャラリーのダ・ヴィンチ展覧会(2012年)で展示されました。
マーティンケンプの著作
ダ・ヴィンチの知られざる真作だと判明した「美しき姫君」
「名画発見」の謎ときを120点におよぶカラー図版とともに紹介。
ナショナルギャラリーのダ・ヴィンチ展覧会(2012年)を見た人はラッキーですね。
510億円で購入したとされる人物は?
サウジの皇太子、ムハマンド・ビン・サルマーンと言われています。
3ケ月前に岸田総理は訪問先のサウジアラビアで会談していますからニュースで見たことある人も多いと思います。
サウジの皇太子はイスラム教のスンニ派で、イラン(イスラム教、シーア派)との外交正常化が望まれています。
来日されて、天皇陛下(現上皇)、安倍元首相とも会談されたこともあります。
石油王なら510億円ポンッと払えるのもわかります。
個人資産は約200兆円と言われています。
桁がでかすぎてよくわからないよ。
映画では「救世主」がなぜ世に公開されなかったか、理由を匂わせています。
気になる人は映画でぜひ。
関連リンク ムハンマド・ビン・サルマーン - Wikipedia
しかし、映画で匂わすような理由だけでサウジの皇太子が「救世主」を購入したのか。
ドミトリー・リボロフレフに落札というカタチで資金提供し、何か裏で取引があってもおかしくないな、と「007」みたいなことを想像しました。
皇太子はサウジアラビア人の記者が2018年に殺害された事件「カショギ暗殺事件」の訴訟をめぐり関与が疑われていた人物でもあります。
何か裏があるに違いない!と思うのが自然でしょう?
2022年11月にアメリカのバイデン政権は関与が疑われていたサウジのムハンマド皇太子は免責されるとの見解を裁判所に示しました。
以前はバイデン大統領は皇太子の責任を追及する姿勢を示していたにもかかわらず。
都市伝説や陰謀説的なことが好きな人にもおすすめの映画だと思いました。
参考までにBBCの動画「サウジ政府を批判すると次々と消える 王子でさえも」を紹介します。
名作《サルバトール・ムンディ》(世界の救世主、通称 男性版モナ・リザ)とは?
ラテン語で「世界の救世主」を意味し、500年前に描かれたレオナルド・ダ・ヴィンチの最後の作品とされ、イエス・キリストを描いた肖像画とされる。
描かれたのは1500年頃とされているが、長らく行方不明となっていた。
その目は私たちを見つめており、片手の指は交差され、もう片方の手は透明の水晶玉を持っている。 美術史上最高額の約510億円で落札された同作は、落札当時から落札者をめぐって様々な憶測を呼んでおり、いつ一般公開されるか注目が集まっているが、現在の所有者や所在地はいまだ謎に包まれている。
1500年頃
フランスのルイ12世のために描かれたと言われている
1600年代
イングランドの王室コレクションの目録に記録される
1900年
英国の美術収集家が購入した時に再び世に現れる
1958年
45ポンドでアメリカの実業家に売却される ※傷みが激しく、破れ、所々修復されており、塗料の状態も悪く、色あせており、「ダ・ヴィンチの弟子のひとりによる複製のその後のさらなる複製」と考えられていた。
2005年
米美術商ロバート・サイモンらが、わずか1175ドル(約13万円)で購入
2006~07年
著名保存修復士により修復作業を進め模写ではなく原画である可能性が浮上
2008年
ダ・ヴィンチの権威である研究者たちがロンドンのナショナル・ギャラリーに集まり調査した結果、本物のダ・ヴィンチ作品であるという結論に
2011~12年
ロンドン・ナショナル・ギャラリー「L・ダ・ヴィンチ展」にて新発見の真作として披露
2013年
スイス美術商イブ・ブービエが8000万ドル(約100憶)で購入 その後ロシアの大富豪ドミトリー・リボロフレフへ1億2750万ドル(約157億円)で売却(2人は不当な売値として長年裁判で争う事に)
2017年
ドミトリー所有の本作は、世界各国で展示された後、オークションにて世界最高額の4億5000万ドル(約510億円)にて取引され、売却される。落札者は発表されなかった。
2018年
アブダビ文化観光省が本国ルーブル美術館のために購入したとされていたが、展示はなかった。それどころか、「アブダビ文化観光省」という機関は実際には存在しないことが判明。
2019年
パリルーブル美術館が、ダ・ヴィンチ没後500年記念の展示会での出品を交渉するも成立せず。この交渉を最後に、現在に至るまで絵画の所在ははっきりしていない。
登場人物・関係者(インタビュイー)
・ロバート・サイモン 美術商、「サルバトール・ムンディ」の発見者
・ルーク・サイソン ナショナル・ギャラリー学芸員
・マーティン・ケンプ オックスフォードの美術歴史家、ナショナル・ ギャラリーとクリスティーズの主任専門家
・マシュー・ランドラス オックスフォードの美術歴史家、ナショナル・ ギャラリーとクリスティーズの主任専門家
・スコット・レイバーン ニューヨーク・タイムズ紙記者
・ワーレン・アデルソン 美術商、「サルバトール・ムンディ」の販売者
・ニコラス・ジョリ サザビーズ・フランスの元副社長
・イブ・ブーヴィエ 美術商、ドミトリー・リボロフレフのアドバイザー
・エルヴェ・テミム ドミトリー・リボロフレフの弁護士
・アン・ラミュニエール クリスティーズ・ジュネーヴの元代表
・クリス・デルコン フランス国立美術館連合、グランパレ元代表
・“アリア・アル・セヌーシ王女” サウジアラビア文化大臣バッダー王子のアドバイザー
・“ピエール” フランス文化大臣の高官・ “ジャック” 政府高官
参照サイト 映画『ダヴィンチは誰に微笑む』公式サイト