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いまだに人気の向田邦子。魅力がギュッと詰まった『向田邦子ベスト・エッセイ 』(感想レビュー)

 

向田邦子ベスト・エッセイ』を読みました。

今年3月の新刊だったのですが、すぐに売り切れ!(現在は在庫アリ)

未だに向田邦子の人気の強さがうかがえました。

向田邦子ベスト・エッセイ (ちくま文庫)

向田邦子ベスト・エッセイ (ちくま文庫)

 

解説・角田光代。編者あとがき・向田和子(9歳違いの末っ子) 

 

向田邦子について

向田 邦子は、テレビドラマ脚本家、エッセイスト、小説家(第83回直木賞を受賞)。  

ホームドラマ作品『時間ですよ』『寺内貫太郎一家』『阿修羅のごとく』と脚本家として知られます。

 

向田邦子ベスト・エッセイの感想レビュー 

 

向田邦子が子供の頃、戦争がありました。

東京大空襲の話も出てくるし、サザエさんの波平よりもさらに古風なお父さんが出てきます。

もしも向田邦子が生きていたら今年91歳

今のおばあちゃんの時代の話がたくさん書かれています。

ちなみにギネス世界記録で世界最高齢に認定されている福岡市の田中力子さんは、今年117歳になられました。

ひぇー、すごい。

黒柳徹子さんが87歳なので、向田邦子さんより少し年下になります。

そして黒柳徹子さんが『お辞儀』に出てきます。

留守番電話にメッセージが入りきらず、9件も残したという話。

まだ留守番電話が珍しい時代です。

黒柳徹子さんらしくて想像できる楽しいエッセイです。

 

有名なエッセイ『父の詫び状』で、当時の父と子の関係が垣間見られるのだけれど、現代の若者が読んだら(これはどういうことだろう?)と理解ができないかもしれないと思いました。

解説で角田光代さんも「今の時代は明治生まれのこわい父親を知らない人が多いだろうから、父の詫び状に共感はしないかもしれない。でも、、、」と書かれていました。

何しろ、父が手紙を通してとても遠回しに子に詫びるというエピソードです。

その場で「ありがとう」なり「すまないね」と声を掛ければ済む話に見えます。

だけど向田邦子の時代は父がいちばん風呂に入る時代で、しかも薪で沸かすタイプだったから湯加減をちょうどよく合わせるのも女性の仕事と言った具合(『白か黒か』より)

現代は父がいちばん最後にお風呂に入り、風呂掃除までして出てくると聞くので、何から何まで時代がまったく違うのです。

「アッパッパ」という単語を久しぶりに見て、思わず検索して調べました。

 

でも、そんな古風な父と娘のやりとりが他人事だとなんだか可笑しいのです。

雨の日ぶ傘を持って駅まで父を迎えに行く『知った顔』。

せっかちな父とすれ違うかもしれないと思い、サラリーマンとすれ違うたびに「向田敏雄」と父の名を呟きます。

子供の知恵が可愛いくて、本人は真剣なだけに想像すると笑ってしまいます。

「馬鹿!歩きながら、おやじの名前を宣伝して歩く奴があるか」

結局は父に怒鳴られますが、後で母から父が「機転の利く奴だ」と褒めていた、と聞いた話は、古風な父の素直じゃない姿がなんとも言えません。

それが当時のお父さんとしては一般的だったと思います。

実際、はじめてエッセイ集を出したとき「うちの父と同じ」という感想が多かったとありました。

 

字のないハガキ』も収録されていました。

漫画『書店員 波山個間子』でお客さんが記憶を頼りに本を探しにやってきて、

「マルとかバツとか書く話なの」

「その話読んで私泣いちゃったのよ」

というのですが、確かにグッとくるエッセイで心に残ります。

書店員 波山個間子 1巻

書店員 波山個間子 1巻

 

 

向田邦子のエッセイは、

「入り口からはいったが、出口が想像していた場所では無かった」

という印象です。

父の詫び状』では、夜更けに伊勢海老をもらったことにはじまり、玄関先で父に叱られた話になり、どぶろくの話になり、「どうしてこんな話になったんだっけ?」となります。

そのせいか父の詫び状は何度も読んでいるのに、結局どういう話だったのか、後になるとすっかり忘れてしまいます。

読むと、その活き活きとした描写や、細かい気持ちを上手にすくいあげているのが面白くて読書がすすむのですが、話は覚えていないミステリー。

何度読んでも楽しめるのが向田邦子のエッセイの魅力だと思います。

しかも『向田邦子ベスト・エッセイ 』は名エッセイばかり収録されていておすすめです。

 

向田邦子ファンには好きなエッセイが収録されていないという不満がレビューで見られますが、私も『Bの二号さん』がないので少々残念に思いました。

まぁ、二号さんは愛人を指す言葉なので、タイトルからして現代にあわないので収録されいないのも納得ですけれど。

それでも『Bの二号さん』は、まだ女性が自分の稼ぎでマンションでひとりで暮らすことが珍しい時代に向田邦子が誰かの愛人だと勘違いされる話で、それを面白がっている向田邦子が愉快です。

かと思いきや、(私の記憶が確かなら)このマンションを弟に譲ると遺言に残したとも書いていて、戦争を経験されている方は考えるところがあるのかなと思ったり、この後、航空機事故で自身が亡くなることを知らない向田邦子の言葉になんとも言えない気持ちになりました。

『Bの二号さん』は眠る盃に収録されています。 

新装版 眠る盃 (講談社文庫)

新装版 眠る盃 (講談社文庫)

  • 作者:向田 邦子
  • 発売日: 2016/01/15
  • メディア: 文庫
 

マンションの名は変わっているそうですが、今でも東京・目黒にこのマンションは建っていて、ときどき聖地巡礼に訪れるファンもいらっしゃいます。

(ほうほう、これが向田邦子の住んでいたあのマンションか)

一度見たい気もします。