村上春樹さんが選んで訳した9編のラブ・ストーリー とご本人の 書き下ろし短編小説が掲載されている「恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES」を読みました。
一編を読み終えると、村上春樹さんの感想が掲載されていて、どうしてこの作品を選んだのか、ということがわかります。
すごく興味深いです。
文庫本もあります。
村上春樹が選んで訳した9編のラブ・ストーリー + 書き下ろし短編小説
マイリー・メロイ 「愛し合う二人に代わって」
デヴィッド・クレーンズ 「テレサ」
トバイアス・ウルフ 「二人の少年と、一人の少女」
ぺーター・シュタム 「甘い夢を」
ローレン・グロフ 「L・デバードとアリエット」
リュドミラ・ぺトルシェフスカヤ 「薄暗い運命」
アリス・マンロー 「ジャック・ランダ・ホテル」
ジム・シェパード 「恋と水素」
リチャード・フォード 「モントリオールの恋人」
村上春樹 「恋するザムザ」(書き下ろし)全10編収録
なんてことない話だったりするんですが、思いがけず余韻が残ったりして楽しめる作品集でした。
村上春樹さんの訳だからというのもあるのでしょうが、そういう余韻の残る作品だからこそ翻訳したかったのかもしれないですね。
名前がグレゴール・ザムザで、その響きになんだかうっすら笑みが出てしまいました。
なんて、、、変な名前。(実際によくある名前だったら失礼な話だけど)
最後に村上春樹さん、ご本人の感想を読んで、やはり元ネタはそうであったか、、、と思うような話で、ノルウェイの森のようなものでは無かったのが個人的には残念。(短編で表現できるようなことではないだろうけど)
書いたご本人が、恋愛甘苦度 甘味★★★/苦味★★ としているところに笑ってしまうのだけど。
その★を頼りにすると、「二人の少年と、一人の少女」が同じ恋愛甘苦度なのも興味深いです。
今回、ページを開いた途端、あぁ、ここ好きだなぁと思った中の表紙。
うっすら透けた紙が使用されています。
右側の朱色とのコントラストも美しいです。
今回の装幀は田中久子さん。
装画には竹久夢二の「黒船屋」がつかわれています。
11歳年下の画学生・笠井彦乃を思い、彼女をモデルに描いた作品で、「恋しくて」にぴったりです。
ふたりの恋愛は、残念な結果になったようです。
2人は、夢二の作品を売る「港屋」で出会いました。
その頃既にたまきと別れていた夢二は、彦乃に強く惹かれます。
しかし、彦乃の父親から反対され、2人は引き離されてしまいました。
会えない間密かに文通を続けながら愛を育み、やがて2人は東京を離れ京都へ。
ところが、そんな2人を悲しい運命が待ち受けていました。
ほどなくして彦乃に病が発覚し、彦乃は父親に連れ戻され、東京の病院に入院してしまったのです。
引き離された夢二は、病院の近くにあった菊富士ホテルで彦乃の回復を待ちました。
『黒船屋』が描かれたのはまさにその頃。
夢二は、彦乃に会えない切なさの中でこの作品を描いたのです。
田中久子さんはこの絵の背景もご存じで起用されたのでしょう。
6つの物語。村上春樹の最新短篇集。