公開記念“特別放送”として映像の一部が無料公開されていたので見比べてみました。
・映画『シン・仮面ライダー』幕前/第1幕 クモオーグ編・本郷猛(池松壮亮)
4/16(日)迄の期間限定で配信中TVer期間限定配信
・仮面ライダー傑作選 第1話「怪奇蜘蛛男」・本郷猛(藤岡弘)
シン・仮面ライダー公開記念 庵野秀明セレクション仮面ライダー傑作選 | TVer
庵野秀明監督が仮面ライダーで蜘蛛男のエピソードが好きだと語っていました。
『監督不行届』から紹介しておきたい。
・仮面ライダーのロケ地を歩く
・モノをはかる単位は1KR(仮面ライダー)=38cm(フィギアの大きさ)
・ダイエットに成功したときの言葉「仮面ライダーのスーツが着れる!!」
・大人用仮面ライダーベルトを購入して嫁に変身を見せる
など、監督と仮面ライダーが日常で切り離せないエピソードがてんこ盛り。
その庵野秀明監督が『シン・仮面ライダー』を撮ったのだから、愛が深すぎる故に心配する気持ちもありました。
『シン・仮面ライダー』感想レビュー
仮面ライダー(1971年)は、子供向けテレビ番組とあって冒頭で世界観の説明がビジュアルを含めてしっかりされている。
本郷猛はバイク乗りの腕は超一流。
そこへショッカーが拉致に現れて改造手術が行われるのだが、医者のビジュアルが人ではなく、ただならぬ手術だとひと目でわかる。
ナレーション
「本郷猛の耳にしたショッカー。
それは世界のあらゆるところに網が張られる悪の組織なのだ。
本郷猛はなぜか日本の人里離れたこの秘密基地に運ばれた。
ショッカーの狙いは世界各国の人間を改造しそれを意のままに動かして世界征服を計画する恐るべき団体なのである」
我々が求めている人間は知能指数600、スポーツ万能の男。
君は選ばれた青年だ。
ところが『シン・仮面ライダー』では緑川先生と本郷猛の会話が主流で、改造手術の大事なシーンはあっさりしたものだった。
え?本当に?
ナレーションもない。
映画の尺で目一杯詰め込むためだろうか、早送りしたような仕上がりが目立つ。
はっきり言って全く頭に入ってこず、理解が追いつかない。
セリフも聞き取りにくい。
仮面ライダー初見の人には置いてけぼり感がすごいのである。
仮面ライダーの蜘蛛男やその他の演出を見て思ったのが、妖怪っぽい。
当時の子供達に馴染み深い形状と思われる。
例えば女工作員たちはセクシーで、人を惑わす女型妖怪(雪女など)がモチーフに見える。
蜘蛛男も不気味さが際立っており、怖くて不思議な雰囲気に『トワイライト・ゾーン』のような雰囲気がある。
蜘蛛の糸での攻撃が主要で、歌舞伎の蜘蛛のイメージに近いかもしれない。
蜘蛛男は仮面ライダーに簡単に蹴飛ばされて、ごろごろと坂を転がっていくのである。
『シン・仮面ライダー』の蜘蛛男はドレッドヘアっぽいモダンなスタイルでパルクールを披露する身軽さがありスタイリッシュ。
俊敏な動きを見せスパイダーマンに近い。
強敵にパワーアップした蜘蛛男だが、仮面ライダーの不気味な蜘蛛男のほうが好きだ。
画面端でチラチラと指を見せる演出などが楽しい。
『シン・仮面ライダー』の本郷猛を演じるのは池松壮亮(いけまつ そうすけ)。
2003年、ハリウッド映画『ラスト サムライ』で映画初出演。
トム・クルーズ演じる主人公と心を通わす少年・飛源を演じている。
断っておくが、私は池松壮亮は演技派で素晴らしい俳優だと思っている。
しかし、藤岡弘の本郷猛の存在感がすごい。
目が大きいからか、目の演技に焦点があてられている場面も少なくない。
蜘蛛の罠にバイクごと引っかかる表情は、子供だったらハラハラしながらも飛び跳ねて喜ぶだろう。
当時の昭和らしい演出と相まって、藤岡弘がすごく良いのだ。
藤岡弘のカリスマ性を改めて感じた。
アクションについて、仮面ライダーは当時の技術ではそれが精一杯と思われる演出が見られる。
ショッカーが泡になって消える場面は特にそう思うだろう。
しかし、工夫を凝らしてあるだけにどういう意図で表現しているのかわかる。
技術が追いついてなくても、表現したいことが伺える。
『シン・仮面ライダー』は本郷猛のバッタらしく変形した腕が気持ち悪く良かったが、泡に関して言えば、そこに不気味さを醸し出してやろうとか、世界観を投入する気が感じられない。
技術の問題ではなく、表現の問題だと思う。
随所に各作り手の仮面ライダー愛が見えないような気がした。
スタッフも仮面ライダーが好きという人物を集めれば、もっと熱い作品になったのではないか。
『シン・仮面ライダー』では、ショッカーから血糊が飛び散るなど、エヴァンゲリオンの庵野秀明監督らしい暴力性を感じるアクションにはなっていたものの、旧仮面ライダーに詳しい殺陣師であればまた違ったものになっただろう。
年齢制限はPG12(12歳未満の方は、保護者の助言・指導が必要)
正直に言えば「こんなもの?」とも思わなくもなかった。
庵野秀明監督の仮面ライダーの世界観はこんなものではないはずだ、と思える。
それは庵野秀明監督の作品の作り方にあり、充分に監督の意図を汲めないスタッフが右往左往してもがきながら撮影した結果なのではないか。
オタク四天王の庵野秀明監督のように仮面ライダーに造詣が深い者はなかなかいない。
『シン・ウルトラマン』『シン・仮面ライダー』と監督は立て続けに撮影したため疲労があったのかもしれないと思ったが、庵野秀明監督と同じような仮面ライダー熱量を持つスタッフに恵まれなかったことも原因と思われた。