映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』を見ました。
前作『007 スペクター』でMI6を退いたジェームズ・ボンド。
恋人・マドレーヌと南イタリア・世界遺産マテーラを楽しんでいましたが、いろいろあってカーアクションを繰り広げ、その5年後、『007 カジノ・ロワイヤル』以来、親交の深いCIAのフィリックス・ライターから仕事を依頼され、活躍する物語。
マテーラのカーアクションが素晴らしい!
監督は『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』 の脚本を手掛けたキャリー・ジョージ・フクナガ。
フクナガという名前は、父親が日系アメリカ人三世なのです。
サフィンの和について
悪役・サフィンが「能面」をつけてたり、作務衣みたいな服を着ています。
悪役ですがサフィンの親日っぷりに、ほのぼのしてしまいました。
なぜサフィンが和風なのか。
それは彼の一族の暮らしていた島が、日本とロシアで揉めている海域にあることが関係していると思われます。
つまり、北のあの島々のことを指していると思います。
映像はデンマークの自治領であるフェロー諸島のケァルソイ島を加工したものです。
GoogleMap ケァルソイ(Kalsoy)島
サフィンの能面について
映画公開当時ネットでも話題になったサフィンの「能面」
実際につけると視野が狭く、人を暗殺するのに相応しい覆面とは言えません。
監督はサフィンを能面を通して表現したかったことがあるのではないでしょうか。
能では、神仏、天人、仙人、草木の精、鬼神、亡霊、霊獣など、超人間的な存在を演ずる際には面を使用します(参照 能面 - Wikipedia)
能面の一部が割れて、サフィンの毒に侵された皮膚が露わになります。
(皮膚を隠すために能面をつけているんだな)
と感じるのですが、しかし、それだけなのか?
その後、サフィンが子供を助けることから、能面の一部の破損は彼の人間的な一面が露になった瞬間でもあるのかもしれないと感じました。
ただ、子供を助けたからと言って、それが「優しさ」であるとは限らないと思います。
ジェームズ・ボンドが正座!?
サフィンは秘密基地になんと畳を敷いていました。
ちょっと面白くもありましたが、畳って基本は「いぐさ」で天然の畳を海外に輸入するのは難しいと聞きますし、輸送費用も高価ですから、広々と畳を敷いているサフィンの日本好きは本物すぎて吹き出しそうになりました。
サフィンが子供頃に家族と過ごしていた部屋をサフィンが再現したというコンセプトはあるようです。
サフィンはロシア人設定ですが、もしかすると先祖に日本人がいるのかもしれないですね。
ちなみに、森田畳店という日本の畳屋さんが「『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』に畳112枚が使用されました」と書いてました。(参照 森田畳店)
はっきりと足元は映りませんが、ボンドは日本のマナーに精通しているようです。
このときボンドが座る場所は畳の外です。
この構図って、天皇などすごく目上の人が座る位置には畳が敷いてあって、お目通りする人は板間のあの時代劇な感じ。
サフィンが自らを神と名乗ることからして、能面しかり、畳に座るサフィンは超人間的な存在であることを示しているのかもしれないと感じました。
そして、失言したボンドが謝罪しますが、土下座なポーズ!?
衝撃映像です。
土下座がどんな意味か知っている日本人にはボンドの気持ちが痛いほどわかる場面だと思います。
ジェームズ・ボンドの心情を監督は表現するため、あえて畳を用意したのではないでしょうか。
まるで時代劇を見ているかのような演出。
キャリー・ジョージ・フクナガ監督は日本の昔の映画を沢山見ているのではないかと感じました。
そして、この後の展開もたまらないんです!
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で描かれているもの
サフィンの家族を殺した男、その子供が罪を償うべきとばかりに、何度もそのことが会話されますが、その子供もサフィンに母親を殺されています。
その負の連鎖は「戦争」を彷彿させました。
キャリー・ジョージ・フクナガ監督は1977年生まれですが、父親が、
第二次世界大戦中に起きた日系人の強制収容に伴い、父親はユタ州のトパーズ戦争移住センターで誕生した。
参照リンク キャリー・フクナガ - Wikipedia
とあります。
日系アメリカ人は家も財産もうばわれ、砂漠のきびしい収容所生活(参照 トパーズの日記―日系アメリカ人強制収容所の子どもたち) だったそうなので、大きな影響を受けたのではないでしょうか。
また監督は、母親の祖父がスウェーデン系、母方の祖母からドイツ系とイギリス系の血も受け継いでいて、今回の『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』ではDNAが関わっていることもあり、監督にしかできない表現にこだわったかもしれません。
というのも2017年、アメリカの人気ファッション誌、VOGUEで「芸者」風スタイルの写真が掲載されたモデル、カーリー・クロスが「日本の文化を盗用した」として批判を浴びたことがありました。
もしも、カーリー・クロスにほんのわずかでも日本人の血が入っていたなら、ここまで批判されることはなかったのではないでしょうか。
その後もさまざまなな場面で「文化の盗用」は頻繁に問題になっています。
ジェームズ・ボンドはMI6時代はイギリスという国のために戦っていました。
MI6を退いたボンドは何のために戦うのか。
これがこの映画の見どころだと思います。
物語がやや複雑だったり、匂わせなセリフもあるため、一度見ただけでは理解しきれないかもしれません。
とても繊細に、そして巧みに描かれています。
ダニエル・クレイグ演じるボンドの最後の恋愛として、恋人・マドレーヌにも注目です。
ボンドが愛を知るきっかけの『007/カジノ・ロワイヤル』こちらも復習必見です。
CIA・フィリックス・ライターとの出会いもあります。
登場人物を把握するのに『007 スペクター』の復習がおすすめ。
マドレーヌとの出会い、組織「スペクター」との関係など理解できます。
Qのエプロン(前掛け)について
ボンドがQの家を訪ねると、客人を招く準備をしているQのエプロン(前掛け)に日本語が!
実際に販売されている「縁起紋前掛け『富士山』」 という日本伝統の帆前掛けです。
昔の酒屋さんでこうした前掛けをしているイメージがありますね。
現在では約30か国で販売され、大英博物館やMoMAでも扱われているとのこと。
参照リンク 『007』で話題の前掛け 製造業者は「MAEKAKEという言葉を世界中に」|NEWSポストセブン
Qは『007/スペクター』で「家のローンがあり、猫が2匹」(27分頃)と話していて、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』でその家が明らかになっています。
(これがあのローンを組んだ家で、毛の生えない猫を飼っているのか!)と見ていて楽しい。
Qの家は小さいながらも庭付きで、イギリス・ロンドンの不動産事情を考えると、お高い物件だと思いますから、Qの給与がなかなか良いものだと伺えます。
Qの紅茶ポットについて
英国軍の航空機に現れたQは、よく見ると上着の下はパジャマです。
そして秘密兵器を入れている引き出しの下段に、紅茶ポットとティーカップの本格的なセットが仕込んである!
あれは、イギリス・ロンドンポタリー社の紅茶ポットではないでしょうか。
Qは『007/スカイフォール』で初登場したとき、武器開発係と聞いたボンドは「冗談だろう?」と言います。
Qは歴代の武器開発係と比べても若すぎるのです。
そこでQは、
「PCがあれば紅茶を飲みつつパジャマ姿で諜報部員に勝てます」(39分頃)
静かな口調ですが、啖呵を切る場面があります。
今回『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で、まんまと実践して見せた!
なんて愉快な演出なのでしょうか。
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』ロケ地・世界遺産マテーラについて
南イタリア・マテーラは遥か昔から人々が暮らした洞窟住居が並ぶ美しい街です。
素敵だったので、ロケ地をお散歩できるようにGoogleMapのリンクを貼ってみました。
GoogleMAP
ボンドが飛び降りる橋は、マテーラの隣町、グラヴィーナ・イン・プーリアの「水道橋」です。
水道橋の高さ37メートル、長さ90メートル、幅5.5メートル。
GoogleMAP Ponte Acquedotto sul torrente Gravina
ちなみに岐阜の新旅足橋は、高低差215mの日本一高いブリッジバンジージャンプが楽しめます。
ジェームズ・ボンドが飛び降りるより迫力を感じるかもしれません。
ジェームズ・ボンドとマドレーヌが泊まったホテルを探したら、実在しないホテルでした。
ジョヴァンニ・パスコリ広場展望台前にセットを置いて撮影したようです。
マドレーヌが眺めた風景はジョヴァンニ・パスコリ広場展望台から見られます。
GoogleMAP ジョヴァンニ・パスコリ広場展望台
映画のホテルには泊まれませんが、ダニエル・クレイグや出演者が滞在した5つ星ホテルがあります。
「パラッツォ・ガッティニ・ラグジュアリーホテル」です。
GoogleMAP パラッツォ・ガッティニ・ラグジュアリーホテル
映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は演出もよく考えられ、映像的にも素晴らしく、最期にふさわしい映画になっていると感じました。
キャリー・ジョージ・フクナガ監督には日本を舞台にした映画をいつか撮って頂きたいです。