池波正太郎の『旅路 上』は続きが気になる所で終わっていました。
けれど『旅路 下』の分厚さにひと休憩をはさんで、ようやく読みはじめたんですが、面白くってあっという間に読めました。
『旅路 上』よりはやく読めたと思います。
新しく出版された単行本は文字が少し大きくなって読みやすくなっているとのこと。
旅路 下 あらすじ
ヒロイン・三千代は新婚の夫を斬殺され、仇を討つため下手人(近藤虎次郎)を追い、藩に無断で彦根を出奔、江戸に向かった『旅路 上』
三千代は江戸の暮らしに慣れ、仇討ちの気持ちも薄れつつある頃、事件が起きる。
剣客・加藤平十郎に助けられ、三千代は加藤の道場で世話になる。
近藤虎次郎はなぜ三千代の夫を惨殺したのか、その真相が明らかになる。
『旅路 下』池波正太郎・感想レビュー
三千代~!!
叫びたくなるような描写がいくつかありました。
いや、三千代は悪くない。
美人で、働き者で、武家の女として教養があって、
そうした女を男が放っておかないだけ。
それにしても、再び暴漢に襲われてしまう三千代。
学習しない女だぜ。
そういう危うさも、男が放っておかない所なのかもしれない。
近藤虎次郎ほど不器用な男はいないと思います。
イイ奴なのに報われない。
つい感情移入してしまいます。
でも、ふと思い返せば、近藤虎次郎の無作法さが招いたことでもあります。
ときどき「なぜなんだろうね」と疑問を感じるほど、恋人がいない人がいます。
見た目も悪くないし、定職にもついていて、普通に会話もできる。
けれども、やっぱり「ここぞ」という場面で何かが抜けていたり、足りなかったりすることがあるのかも。
お試しデートはすごく楽しかったのに、最後の会計の割り勘が細かすぎて冷めたと聞いたことがあります。
もちろんお付き合いは丁寧にお断りしたと。
加藤平十郎もまた報われません。
彼の人生の敗因は「こだわり」が強かったことでしょう。
道場経営にもそのこだわりが見てとれました。
彼にとって剣の道はお金儲けの道具では無いのです。
しかし、それで今まで誰も嫁に来てくれなかったのでは。
「いい人なんだけど」影で言われてそう。
そうして人生の分岐点にさしかかったとき、加藤平十郎が下した決断には、やはり「こだわり」を捨てきれなかったと思います。
加藤平十郎、近藤虎次郎を通して男の幸せのつかみ方を考えさせられました。
『旅路 下』は読み手によって、三千代の印象が大きく異なると思います。
それがこの作品の面白さでもあるのではないでしょうか。
三千代をどうしたらゲットできるのか。
ある意味、美人を落とすノウハウ本だとも思いました。