Amazonプライム・ビデオの会員特典に、フランス映画『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』が追加されました。
お腹の出た中年男性が並んだ姿に、もう面白い予感がする!
マチュー・アマルリックのキメポーズが笑える。
ジル・ルルーシュ監督作、マチュー・アマルリック、ギョーム・カネ出演。
マチュー・アマルリックは『007慰めの報酬』の悪役が良かった。
マチュー・アマルリックに興味が出て『潜水服は蝶の夢を見る』を見たら演技に驚いて、続けて3回も見てしまった。
暗くて小難しい物語で3回も続けて見るような物語ではないと思う。
ギョーム・カネはダイアン・クルーガーの元夫で、マリオン・コティヤールとの間に息子がいるイケメン俳優。
この映画では常にイライラしている男性を演じている。
映画『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』あらすじ
ベルトラン(マチュー・アマルリック)はうつ病を患ってから2年になる。
就職し社会復帰をしようとするもうまくいかず、奥さんが家計を支えている。
子供はふたりいる。
ある日、ベルトランは地元の公営プールで男子シンクロナイズドスイミングチームのメンバー初心者歓迎の募集を目にし、衝動に任せて加入を決意する。
メンバーがみなベルトランと同じように中年男性で、着替え中のわずかな時間に、互いに心の内を明かすうちに次第に親密になっていき、それぞれ家庭や仕事に不安を抱えているとわかる。
ふとしたきっかけで、男子シンクロ世界選手権の開催を知り、メンバーは半ばノリで応募する。
けれど、過去にシンクロで優勝経験を持つコーチが黙っていなかった!
実在するスウェーデンの男子シンクロチームの実話がベース。
激レアさんに呼ばれるレベルだと思う。
映画『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』感想レビュー
男子シンクロ世界選手権は、想像以上に本格的な大会で、各国のレベルが高い。
日本も出場している。
えー!これどうなるの!?
冒頭で彼らが披露したシンクロは、とてもじゃないがシンクロとは呼べないレベル。
中年男性がプールでバシャバシャしているだけだったし、練習を重ねてはいたものの、なかなかフォーメーションも決まらなかった。
このまま演技をしたら、大笑いされるのではないか。
メンバー達も他国の演技を見て、びびっている。
ベルトランの緊張が伝染して私まで緊張してしまう。
いったい彼らはどうなってしまうのか。
世界選手権にハラハラ、ドキドキした。
2015年の世界水泳で初めてシンクロナイズドスイミングの男子競技が正式競技に認定されている。
それでもまだ女性の競技というイメージが強い。
ベルトランがシンクロをはじめたことを知った義兄が小馬鹿にするのだけど、そういう態度をする人は案外多いかもしれない。
けれども自分は自分、といったフランス人らしい対応で、ベルトランが義兄の言葉にひるまないのが良い。
あれは古典の何の作品だったか。
楽器を練習して、下手なことを小馬鹿にされるのだけれど、続けているうちに上手くなって、1年後くらいにはみんなと楽しく演奏ができるようになったという話。
小馬鹿にされて諦めてしまえばそれで終わりだけど、続ければ違う未来が開ける。
小馬鹿にする人の言うことに、いちいちめげる必要は無い。
「多分そいつ、今ごろパフェとか食ってるよ。」
そう思ったら、嫌な気持ちが頭から消えた、というアドバイスはなかなか良いと思う。
シンクロナイズドスイミングチームのメンバーは、売れないミュージシャンや、倒産寸前のプール販売会社の社長だったり(社会からややはみ出た存在)なことが次第にわかってくる。
メンバーについて多くは語られないが、俳優たちの名演技によって確かにそこに彼らの人生が垣間見られる。
学校のいじめられっこが、塾や習い事などで自分の居場所を見つけるあの感じに似て、彼らにとってシンクロチームが心の拠り所になっているところがよかった。
大人にもそうした、自分が自分でいられる場所は必要かもしれない。
ベルトランはシンクロをはじめたことにより、表情がやわらぎ、血色も良くなり、うつ病が改善の兆しを見せていく。
何がきっかけで良くなるかわからないものである。
メンバーも少しずつ変化していく。
とりあえず(思いつき)でいいから、何かに挑戦することは良いことなのだと、映画を見て思う。
そしてひとりでは無理でも、仲間がいれば一緒に頑張れるかもしれない。
ベルトランは仲間を見つけるのに(探していたわけではないが)2年かかったが、それでも出会えて幸運だと思う。
仲間と言えば、作家のこだまさんの話が浮かぶ。
ネットで文学仲間と出会い、同人誌『なし水』を作って文学フリマなどの文芸イベントに参加していた。
あるとき仲間に喝を入れられて自伝的小説を書いた。
交際期間を含めて20年、夫とのセックスがうまくいかない小説『夫のチンポが入らない』はベストセラーになり、漫画化され、現在はドラマが放映されている。
仲間がいなければ書けなかった小説だと思う。
フランス映画らしいと思ったのは、姉が妹(ベルトランの妻)に「旅行に行ってないの?2年も?」と聞くところ。
フランス人はヴァケーションに旅行に出かけて日焼けをするのがステイタスなところがある。
それが2年もできないなんて「なんて可哀想な妹」と姉が抱きしめる。
日本人は旅行に行けないからって、そこまでの感覚は無い。
日本人なら、どんなことに例えられるだろうか。
震災関連のニュースで、
「湯船に1週間ぶりに浸かれてありがたかったです」
などという声を聞くと、心底良かったと思う。
海外で、被災者が湯船につかっている映像はかなり衝撃的で話題になったと聞いた。
詳しくは忘れたけど、ブルーシートのような素材でできた簡易風呂に、自衛隊がお湯を注いで用意した湯船で「そこまでして湯船に浸かりたいのか」といった感じだったと思う。
日本人のお風呂の愛は、よっぽどの親日家でなければ理解できないのではないだろうか。
シンクロメンバーの中で異彩を放っていたのが、プールの用務員・ティエリーを演じているフィリップ・カトリーヌ。
職員の食事会では、ひとり離れた席に座り、みんなの会話にあわせて笑っている。
すごく独特。彼から目が離せない。
悲惨な幼少時代が影響しているのだろうが、ティエリーは明るく純粋だ。
プールの管理の仕事をしながら、即興と思われる歌をうたう。
「ミュージシャンは誰もがジャマイカ人。
指の先までジャマイカ人。
気分は最高」
面白すぎる。
ダンスも上手い。
フィリップ・カトリーヌを調べたら、シンガーソングライターで、俳優、監督、と多才な人だった。
この歌詞は彼が考えたのかもしれない。
この映画でセザール賞助演俳優を受賞していた。
やっぱり!
そう感じるくらい好演だった。
おすすめの映画ですが、所かわまず喫煙しまくるし(それがフランス人なのか?)、ハッパをまわすので(だから指定付きなのかな)、そういう場面を見たく無い人にはおすすめしません。