スポンサーリンク

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年


この装丁が内容を象徴していて絶妙だなぁ。

装丁者は大久保明子さん。

こちらのインタビューによりますと大久保明子さんは文藝春秋デザイン部に所属しているのだそう。


使われた絵はモーリスルイスです。

ポストペインタリーアブストラクションの代表作家のひとり。

キャンパス全体を色数の少ない大きな色彩の面で塗りこめるのが特徴の抽象絵画

彼は描いているところを誰にも見せなかったのでその技法は謎のままです。


色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

さて、発売してから1年ほど経っておりますが色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年を読みました。

読み終わってみて、確かに大人には、若い頃の何かしらの理不尽な出来事があった場合、それをいまだに引きずっている人は多い、と気がつきました。

そして、それらの問題は乗り越えたか、乗り越えていないかに関わらず、時間と共に距離が離れていき、心の中にある目立たないポケットにスッと入ったままになっています。

ふとしたことでひょっこり頭を出したり、引っ込んだり、大人になってもポケットの中に入っているのです。

主人公「つくる」は大人になってから過去に向き合います。

そこが、ありそうで無い話だな、と感じました。

突然やってきたつくるを見た同級生が「今さら?」と言ったように、今さら蒸し返すようなことをする人はなかなかいません。

心の中のポケットに気がつかないフリをするか、縫い付けて使えなくしようとします。

そういうことを考えれば、主人公の行動はなかなか興味深いものでした。


興味深いと言えば、同級生の携帯音が「ラスベガス万歳」という、彼に似合わない音だったこと。

当然、気になってその音をチエックしたわけです(そういう人は私だけでは無かった)

そのせわしない音に笑い出したくなるような遊び心のある選曲でした。

【2014年4月18日発売】

女のいない男たち
色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」から1年、
村上春樹、9年ぶりの短編小説集。
表題作は書下ろし作品。